こんにちは、うづまこ金継ぎ教室です。
東京タワー近く、港区三田のうづまこ陶芸2階に、
金継ぎ教室がオープンしました!
今回は、
「金継ぎ講師が簡易金継ぎを試してみた」
という、私の正直なレポートをお届けします。
改めまして、こんにちは。金継ぎ講師のジャンです。
普段は天然の漆を使った伝統的な技法で、器の修理方法をお教えしています。
漆と日々向き合う中で、よく目にするのが
「簡易金継ぎ」や「かんたん金継ぎ」という言葉。
手軽にできる、簡単そう、といったイメージが先行し、
SNSなどでも多くの方が体験されていますよね。
時間と手間をかけて向き合う漆の金継ぎを仕事にしている身としては、
「本物で直せるんだから、わざわざ金継ぎのマネ事をする必要ないよね」と、
その存在は知っていましたが、実際に試したことはありませんでした。
しかし、会員さんや体験にいらっしゃる方々から
「漆を使わない金継ぎならやったことがあります」
という声をよく耳にするようになりました。
また、友人からは
「簡易金継ぎのセットを買ったけど、いざやってみようと思ったら、よく分からなかった」
「セット以外にも必要なものがあって、結局できなかった」といった話を聞くにつけ、
「一体どんなものなんだろう?本当に簡単なの?」「仕上がりはどう?」
という純粋な興味と、少しの疑問が膨らみました。
そこで今回思い切って、
市販されている「簡易金継ぎキット」を入手し、
実際に自分で使ってみることにしました。
プロの目から見て、この簡易金継ぎがどんなものなのか、
伝統的な漆の金継ぎとどう違うのか。
体験を通じて感じた率直な感想をシリーズでお届けしたいと思います。
記念すべき第1回は、器の「欠け」修理に挑戦した様子をお伝えします!
今回のチャレンジャー
今回、簡易金継ぎの練習台になってもらうのは、こちらのお猪口です。
陶芸教室で色見本として使われていたお猪口。役目を終えて廃棄になるところを救い出しました!ナイスタイミングでしたね。今回はこの子で簡易金継ぎを試してみます。
作業開始!
購入したキットを開けてみました。
中にはエポキシの接着剤やパテ、金色の粉(真鍮粉)、合成樹脂、筆などが入っています。
う~ん、なかなかに実験ぽいですね。
欠けの修理に使うのは、主にこのフィルムケースみたいなのに入っている
「エポキシパテ」のようです。
説明書を読みながら、作業を進めていきます。
欠け修理で直面する壁①:エポキシパテの匂いとベタつき
まず、ケースからエポキシパテを取り出して、
主剤と硬化剤を混ぜ合わせた時点での、率直すぎる感想。
「くさいな…」です(笑)。
普段扱っている天然の漆は、
もちろん漆独特の匂いはありますが、
どこか自然の植物由来の、少し鼻になじむような匂いです。
それに対し、このエポキシの匂いは、
いわゆる「化学製品」のツンとした刺激臭。
作業中、段々と匂いにマヒしてきますが、それは危険!換気必須です。
そして、パテを練って、欠けた部分に詰めようとするのですが、
これがまた大変!「ベタベタ」として手袋にくっついてくるんです。
しかたなく指で触ると、当然指にもネチャネチャとまとわりついてきました。
このエポキシパテの、まとわりつくような
ケミカルなベタつきには、正直戸惑いました。
普段だったら、ヘラでササっと済むところなんですけどね…。
簡易金継ぎセットにはヘラはなかったので、
ご家庭で挑戦するときと条件を合わせるために、
指のみで頑張りましたが…ムズカシイヨ。
欠け修理で直面する壁②:欠けの形を「作る」難しさ
パテを欠けた部分に詰め込んだら、
今度は器のカーブに合わせて滑らかな形に整える作業です。
ここも普段だったら、竹ベラの活躍ポイントです!
ですが、簡易金継ぎキットにそのような道具はありません。
指で形を整えようとするのですが、これがまた難しい!
ベタつきのせいで指にまとわりついたり、
形を作ろうにも「ぐにゃぐにゃ」と不自然な形になったり、
パテの表面にシワが寄ってしまったり…。
伝統的な漆の金継ぎで、欠けを埋めるのに使う
「刻苧(こくそ)」や「錆漆(さびうるし)」といったパテ材は、
漆に糊や木の粉などを混ぜて作るのですが、
これらは程よい硬さに調節できるので、
もっと自然に、思った通りに形を作りやすいんです。
エポキシパテはベタついて変形しやすく、
かと思えばすぐに硬化し始めるので、
悠長に形を追求する時間もありませんでした。
(ここらで、もう疲れてきました…;)
欠け修理で直面する壁③:硬化後の切削・研磨の壁
そして、エポキシは乾燥がとにかく早い!
少し目を離した隙に表面が硬化してきます。
経験者情報で「固まる前に早めにカッターで余分な部分を切っておくと後が楽」
というのを聞いたので、硬化が完全に終わる前に
カッターナイフで形を整えようとしてみました。
これもまた、聞いていた以上に難しかったです。
綺麗に「スッ」と切れるイメージだったのですが、
実際はパテがボソボソしたり、カッターの刃が滑って
器の本体を傷つけてしまいそうになったり…。
思い通りにスパッと形を作るのは、なかなかできませんでした。
完全に硬化してからヤスリ(サンドペーパー)を使ってみると、
表面を削って滑らかにする作業は、まあまあ可能です。
これは普段の金継ぎの研ぎ作業に近い感覚もありますが、
いくつか条件があると感じました。
まず、サンドペーパーの適切な番手の理解と研磨するコツを知っていること。
そして、パテ盛りである程度(いや、けっこう正確に)、
器のカーブに沿った形を作れていること。
最初にパテを盛りすぎてしまったり、
ベタつきでできたシワや、逆にパテが埋まっていない箇所があると、
後からヤスリだけで綺麗にするのは、かなりキツイです。
というか、埋まってないところはどうしようもない。
パテが残っていれば埋めることもできますが、
後から埋めた部分の境目がどうしても表面にひびいてきますね。
漆のように、何度でも塗り重ねて、乾いてから研いで…と
形を追求するような自由さはありません。
まーそもそも、1日で終わるようにできていますからね。
仕上げ
なんとか欠けを埋めたパテの形を整えたら、
いよいよ金色の装飾です。付属の筆と金色の塗料を使います。
そう!金色の塗料です。?????!!!!?????
合成樹脂塗料に金色の真鍮粉(しんちゅうこ)を混ぜて、
パテを埋めたところに塗っていくのです。
説明では完全に絵具と言われていました。「金の絵具…」
そういえば、以前に義母がこんなことを言っていました。
「テレビで金継ぎ見たわよ~、金の絵具を塗っていくのねー、綺麗だったわ。」
私は「金継ぎでは絵具は使いません」と答えましたが、
「えー、絵具塗ってたわよ」と話が噛み合いませんでした。悲
この瞬間、長年の謎が解けました。
義母が見たのは、まさしく簡易金継ぎだったのですね!
というわけで、伝統的な金継ぎでは
金は「塗る」のではなく「蒔き(まき)ます」。
漆を塗って、その漆が乾かないうちに金粉や真鍮粉などの金属粉を蒔くのです。
そもそも、漆だけで器を修復できますが、加飾として最後に金属粉を蒔きます。
ではでは、話を簡易金継ぎに戻しましょう。
付属の筆は、見るからに扱いにくそうなものでした。
まず短い、そして細い、持ちにくいです。
毛先はこしがなくへにゃへにゃで使いづらいものでした。
普段、細い線を描くための蒔絵筆を使い慣れているからかもしれませんが、
思うように毛先がコントロールできず、線が太くなってしまいます。
繊細な線を描くのは、至難の業に感じました。
そして、この「金色」の塗料を塗ってみたのですが…
正直、普段、漆で描いた上に本物の金粉を蒔いて仕上げる
「蒔絵」の輝きや質感とは、全く違うな、というのが第一印象です。
まさに「金色の絵の具」を塗っている、という感覚でした。
(これについては、シリーズ最終回でじっくり書こうと思っています。)
欠け修理を終えて(中間まとめ)
初めて簡易金継ぎキットを使って「欠け」の修理をしてみて、
率直な感想は「正直、簡単ではなかった!」です。
特にエポキシパテの
「匂い」「ベタつき」「思うように形が作れない」
「切削・研磨の難しさ」「硬化の早さ」
といった、
素材の扱いに伴う壁に直面しました。
手軽に「くっつけて、金色にしました」という状態にはできますが、
器の曲線に合わせて自然で美しい仕上がりを目指したり、
段差をなくして滑らかにしたりするには、
この材料と工程ではかなり根気が必要だと感じました。
むしろ、ある程度綺麗に仕上げるには、
漆での修理とは全く別の、この素材ならではの習熟が必要なのかもしれません。
手軽ではあるけれど、美しい「金継ぎ」の仕上がりとは、
隔たりがある、というのが欠け修理を終えた時点での正直な感想です。
※お知らせ※
比較のために、ほとんど同じようなお猪口を、漆で金継ぎ中です!
完成したら比較写真を追加しますね。また、読みに来てください^^
さて、次回は、この簡易金継ぎキットを使って「割れ」たお猪口の修理に挑戦します。
欠け修理とはまた違った種類の困難さがありましたので、どうぞお楽しみに!